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宇宙の片隅の記

バイクブログです

映画「レッドタートル」

ジブリによって公開されたアニメーション映画レッドタートルすごくよかったんだけど、結局興行収入はどのくらいまでいったのだろうか? 全然人が入らないだろうというのは予想した通りだが、何しろ私も予告を見てつまらなそうと思ってしまったくらいで、あの『岸辺のふたり』の監督だということを知ってもあまりそそられなかった。というのは岸辺のふたりはあまり好きではないからで、私自身はいわゆるアートアニメションと呼ばれる作品も好きなものも多いが、ただ『岸辺のふたり』はアートアニメーションであるがゆえに手放しでほめられている感じがし、それが嫌だったのだ。

だが一日の映画館が安い日に行って見て見事に裏切られた。本当にいい作品だったのである。ちなみに安い日だったからか、客は自分含めて五人以上はいたはずだ。さて何がいいって絵が美しいことはもちろんだが、感動したのは画面を通して〈てざわり〉が伝わってくることだった。赤ガメが砂浜をなでるときの手ざわりや、亀の甲羅をなでる手ざわり。それが画面を通して本当に伝わってくるのだ。もちろんそれは恐ろしく丁寧に絵を描かないとできないはずで、それだけではなく、作り手にそういった意識がないといけない、つまり絵に本当に命を吹き込むという意識を持ってやららければならない。あと音楽はいかにもフランスのアニメといったロマンチシズムをたたえたもので(『王と鳥』のような)、このおかげで泣けるのである。あと、台詞を全部なくしたのは正解だった。それであの完成度。本当に凄い。

さて感想はここで終わり。なぜレッドタートルが今年公開された他の映画、よく比較される『シン・ゴジラ』『君の名は。』『聲の形』のように話題にならず、人が入らなかったのか。アートアニメだから仕方がないと言ってしまえばそれまでだが、上記の作品に内包されていると思われる、いわばアクチュアルな問題性を、何も持っていないのではないか。検索すれば上記三作品についての社会時評めいた批評やその他の批評は、いくらでも見つかるはずである(あまり読んでいないので想像だが)。たとえ映画の完成度が低かったとしても、レッドタートルよりも上記三作品について語られることは多いだろう。

レッドタートルといえば、作品にあるのはテーマと言うより"基調"であると思われる。辞書で引けば意味は同じだが、テーマと言うほど大手を振って語られるべきものではない、作品の基底にある雰囲気とかアトモスといったもので、それは"小説"と"詩"の違いに相当するのではないか。キャッチコピーは「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」というものだが、まさにそうしたものがアニメーションによって、詩という形で具現化されている、それが素晴らしいものなので、もちろん悪いということは何もない。本当によくできた工芸品のようなもので、だがそれだけではあまり批評はされないのではないか。何しろ完璧さ故に、何も論じることがないように思える。このへんにおそらくアートアニメーションが日本であまり評価されない理由の一旦があると思われるのだが………

しかし今年2016年の映画は面白く、普段あまり映画館にはいかないが、上記作品のほかに『Fake』も見ている。あえて順番をつけるとよかった順に、『Fake』=『レッドタートル』、『君の名は。』、『シン・ゴジラ』、ずっと下がって『聲の形』となるのだろうか。

それにしてももっと多くの人に見て欲しいレッドタートル。何しろ目に留まった2chのレスをみたらジブリの税金対策とか言われていたくらいで、それには吹きだしてしまった。期待していない映画でも行ってみたらよかったということは多いので、さて今度は「この世界の片隅に」行ってくるか。