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宇宙の片隅の記

バイクブログです

夏目漱石「月が綺麗ですね」検証 夏目さんはロマンチストだったのか?

月が綺麗ですね、とは? 

 小説家・夏目漱石が英語教師をしていたとき、生徒が " I love you " の一文を「我君を愛す」と訳したのを聞き、「日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったとされる逸話から。

 広く知られている話ではあるがこれはまさしく伝説であり、明治や大正の古い文献には登場しないという。

ツイッターでこんな投稿を見つけた。

 

 

 

 

作家の津原泰水氏の投稿。とても貴重な証言だ。ウェブでは様々な情報を手に入れることができるが、もちろん全ての答えがあるわけではない。こういった時代の証言は見つからないことが多く、だからこそ貴重なのである。

 では元の話は英語教師の間のジョークだったのだろうか。

「月が綺麗ですね」検証

こちらに文献等がまとめられていて参考になる。なんとここにグラスリップも紹介されているが、それはさておき一番最初の文献を抜き出してみよう。

 

『奇想天外』1977年11月号、奇想天外社、1977年11月1日発行

豊田有恒『あなたもSF作家になれるわけではない』 【6】翻訳の時代VI

 

夏目漱石が、英語の授業のとき、学生たちに、I love you.を訳させた話は、有名です。学生たちは、「我、汝を愛す」とか、「僕は、そなたを、愛しう思う」とかいう訳を、ひねりだしました。「おまえら、それでも、日本人か?」漱石は、一喝してから、つけくわえたということです。「日本人は、そんな、いけ図々しいことは口にしない。これは、月がとっても青いなあ――と訳すものだ」なるほど、明治時代の男女が、人目をしのんで、ランデブーをしているときなら、「月がとっても青いなあ」と言えば、I love you.の意味になったのでしょう。 (4-5頁)

 

「あなたもSF作家になれるわけではない」は奇想天外社発行のSF雑誌『奇想天外』1976年4月号から1979年3月号にかけて連載された豊田有恒のSFエッセイである。1977年11月号掲載分では海外作品を日本語へ訳す事が難しい事の例えとして夏目漱石とI love you.の話が引用されている(「月が綺麗ですね」ではなく「月がとっても青いなあ」という形だが)。現時点(2016年5月26日)では豊田有恒のこのテキストが最古の事例である。『有名です』と書かれているだけで誰から聞いたとかどこで読んだとかの説明は無い。

  

1977年(昭和52年!)の文献が初出だからかなり新しいわけで、それだけでも夏目漱石が言った言葉とするには相当に怪しいものである。

夏目漱石が英語教師をしていたのは有名である。先の津原氏の投稿と合わせて考えると、筆者の豊田氏のなかで英語教師=夏目漱石という連想が働いてしまい、それが広まってしまったように思われる。(なお検証のために「あなたもSF作家になれるわけではない」を買ってみたが、全部読むのは大変なので当該箇所を確認するだけで終わった)

その後、いかにも文豪らしいエピソードに思われるため、そのまま夏目さんが言ったものとして広まっていったものと思われる。

豊田氏はまだ存命中とのことなので、是非表に出て来て説明して欲しいものである。

 

透子「ロマンチストだったんだね、夏目さん」

幸「透子ちゃん、それ勘違い」

 

結論:夏目さんはロマンチストではなかった。